大賞 母の銀杏 (平野 幸雄)
母はこの大きな銀杏の木が大好きであった。
小さなたばこ屋の娘であった母は店番をしながら勉強をするのが日課だったが、目の前にそびえるこの大きな木にどれほど慰められたであろうか。
私達を育てあげ数々の役目を終え、その後痴呆症になり徘徊を何度か重ねていた。ある日さまよった見知らぬ街で、警察の方に尋ねられたとき、「私の家は大きな銀杏の木のあるお寺さんの前です。」と応えたそうである。
母の心は幼少の頃に戻り、七十年もの歳月を越えてしまう程、この木に深い思いがあったのだと思う。
その母もすでに他界し、この木を見る度、母が偲ばれる。
小さなたばこ屋の娘であった母は店番をしながら勉強をするのが日課だったが、目の前にそびえるこの大きな木にどれほど慰められたであろうか。
私達を育てあげ数々の役目を終え、その後痴呆症になり徘徊を何度か重ねていた。ある日さまよった見知らぬ街で、警察の方に尋ねられたとき、「私の家は大きな銀杏の木のあるお寺さんの前です。」と応えたそうである。
母の心は幼少の頃に戻り、七十年もの歳月を越えてしまう程、この木に深い思いがあったのだと思う。
その母もすでに他界し、この木を見る度、母が偲ばれる。






