切り抜いた色々な種類の木をはめ合わせ一枚の絵をつくる「木象嵌」。口で言うのは簡単だが、下絵を描き、どこにどの木を使うかを考え、実際に組み合わせるまで、一連の作業には三カ月はかかるという。内田定次さんはこの道六十年の名工。一見すると筆で描いたかのように見える、作品の精緻さはため息が出るほどだ。どんなに器用な手先かと思うが、意外にも「俺は不器用」という。「でも不器用でこれしかできなかったから、ずっとこれ一本で続けてこられたんだと思うよ」。
作品はどれも一つひとつ思い入れは深いが、気に入っているものは一つとしてない。どれもここをこうすれば良かった、という点が必ずあるのだという。決して自分の技に満足しない。そんな横顔に職人のプライドが光る。

色々な樹種の木材を嵌め合わせて模様を表現する細工を木象嵌、または木画といいます。指物製品の加飾手法の一つとして、江戸時代から手彫りによる彫り込み象嵌技法が伝わってきましたが、明治25年頃箱根湯本の先覚者、白川洗石によって糸鋸ミシンを用いた、挽抜き象嵌法が開発されました。これにより産業工芸的な生産が可能となり、また明治40年頃には特殊かんなを用い、種木を経木状に加工する量産化方法が確立されました。更に使用する木材の自然色だけでは得られない赤、緑、青などの色を染料を用いて染木する技術や、木のボカシの技法など、多くの技術者によって改善継承され、今日至っています。我が国では、小田原地方のみに存在する技法です。

工法は、まずデザインに合わせて種々の木材、あるいは染色した木材を用意し。二枚重ねした板に下絵通りに木材用ミシン鋸で挽き抜き挽き抜いた上の部材を挽き抜かれた下の板にそのまま嵌め込む、この工程の繰り返しにより種板が完成され、更にこれを特殊かんなで削って経木状にし、箱などの表面に貼付して表面加飾として用います。

デザインは山水などの風景画、花鳥、動物、浮世絵などが多く、製品では小箱、秘密箱、皿などのほか、飾額も多く作られています。

木象嵌は自然の木のみを用いて極めて精巧に絵画風に表現するという、他に類のない特徴をもっています。このため材料となる木材の吟味、選択から、糸鋸機の鋸歯作り、板を挽き、寸分のすき間なく嵌め込む技法は、高度な熟練と敬虔を要します。